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価格設定についての考え方(作家と呼ばれる関係の仕事において)

作品・商品の価格判断について

けんしん藤井碧峰書作展2021作品紹介
デリケートな書作品他の価格設定の話についてあえて触れてみます。
これは個人的見解に基づくものであり、あくまでも一つの考え方と捉えて頂ければ幸いです。

【値段非表示の作品について】

今年開催した
・けんしん藤井碧峰書作展2021
・北陸銀行砺波支店藤井碧峰書作展2021
では、昨年までの作品と違い価格を公開せず、お問い合わせを頂いてから価格を提示し、それで購入の意思を頂いてからお渡しする流れとなりました。

実際にお渡しする価格自体は去年とさほど変わっておりません。
むしろ価格公開した方が売れやすい。楽天市場に公開した方が幅広い方からの購買機会を設けることができる。という大きなメリットがあるのですが、その一方で言葉のやり取りもなく機械的に、心を込めて書いた作品が引き取られていくのが非常に寂しく感じるものです。

売上の利益を頂くことも作家としては大切ですが、やはりどういう想いで購入されたのかだとか、実際に受け取ってどうだったかを聞きたい。
これは正直私のわがままです。
でも、そういった頂いた言葉で気づくことも多いので大切にしたいです。

【価格設定時の判断基準】
書道家の手書きオーダーメイド表札書道家の手書きオーダーメイド表札

さて、価格設定というところではオーダーメイド作品の制作、手書き表札、命名書等の商品も同じく、一般の人にとって価格を聞いた瞬間に「ウっ・・・」となるような、でも少し頑張れば手の届く程度の価格設定になっております。
その一般の人の感覚というのは自分が会社員だった時代の金銭感覚や、知人友人のご意見を反映しております。
もちろん人それぞれ感じ方は違うため、かなり安く感じて頂けることもあります。

ベースとなるのは、自分が会社員時代に稼いでいた時給感覚。
そして頂くお金は、それと比較して行き過ぎていないか、下げ過ぎていないかを冷静に判断。
更には日頃の消費活動、特に飲食店や職人相手の仕事で感じる、自分自身の満足度と価格の比較。
そういったものが今の仕事に反映されています。

【安い金額にしない理由】
けんしん藤井碧峰書作展2021作品紹介

何故安いお求めやすい価格にしないのか、という点についてですが、これは以前私も事業を始めて間もない頃に経験したことで、技術料をあまり頂かないと自分に言い訳してしまう。
真面目に字を書いている書道家の安売りは「質が少し悪くても安いから文句は言わないでね」とお客様にお願いしているようなものです。

また、「この仕事は~円しか頂いてないから、これくらいのクオリティで良いか」という、作家としては嫌なもう一人の自分が姿を現し始めます。
その嫌な自分と戦って負けないようにして、”お客様に喜んでもらってナンボだ!”と自分に言い聞かせて何とか良いものを書くのですが、作家の精神衛生的には良くないですね。
作品・商品の価値というのは本来は”お客様をどれだけ満足させられたかどうか”というところにあって、それが安い高いという問題ではない。
ということで、しっかり技術料を頂いておけば、万が一沢山失敗しても、さほど書き手の気持ちのベクトルも正しく保ちやすいのです。

他の作家の方の考えは存じ上げませんが、私個人の考えにおいては価格はあくまでも価格であって、例えば色紙命名書なら5000円という価格設定にしているわけですが、「5,000円以上の仕事をしよう」という感覚で制作しているため、これでお客様にご理解頂けない場合は、価格に需要と供給の関係の前に”相性として”そもそも成り立っていなかったという捉え方をしております。

結論としては、安売りはお客さんにとって優しいわけでも何でもないということですね。
価格に縛られるものは、いくら綺麗事を言ってもその程度のものでしかないです。
良いものを買うのに都合のいいことはあまりないということです。

三笑楽酒造株式会社「魂-kon-」

飲食に関しても同じで、この日本には安くて美味しいものも沢山ありますが、本当に美味しいものを手にしたいならば、それなりのお店に行きたいものです。
良い仕事をするお店は自然と面倒なことを沢山するようになり、他のお店と比較して”割に合わないこと”が増えるものです。
一方で面倒なことにはライバルが少ないのも事実です。
私もその面倒なことを癖のようにやってしまうのですが、お客様に良いものを手にしてもらうことが自分の使命だと感じているので、それに準じた商品設定としております。

【完成作品の価格設定】
けんしん藤井碧峰書作展2021作品紹介

今度は出来上がった作品の価格設定について触れます。
こちらにつきましては、オーダーメイドで制作する作品より少しお得になります。
それは私が内的要因によって好き勝手書いているからです。
様々な想いを持って書道家をしている人間が、想いを込めて書くのだから”それがまた良い”という意見もあると思います。

それでも”ウっ・・・”となる方がそれなりにいる価格かとは思います。
でも私としてはそこを一歩踏み出せる人に作品を購入して頂きたいという気持ちでいます。つまりは【価格<気持ち】という関係です。

根本的には作品の価値というものは購入時の価格で決まるものでは無いのですが、安く買ってしまうと大切にされない、飾ってもらえないという問題があります。
書道家としては、作品というものは飾ってもらいたいと思って書いているのですから、倉庫の奥にしまっておくようなものにしたくないわけです。
作品は見ることに、その場に姿を現すことに価値があるのであって、存在を示すことがないのなら自分にとって何の効用ももたらさないのです。
だから骨董品であっても極力飾れる範囲で楽しみたいという風に考えております。

【長い年月=高価格?】 
書道家 藤井碧峰作品集

以前、とあるTVに出てるような若手書道家と称する方のネット記事を見たことがあるのですが、「長い年月をかけて学んできたのだから、それなりの金額になるのは当然」といったような意見が書かれていました。
この件については、私の感覚では半分正解で、半分間違いです。 

長年書道を学んでも、お客様にとって本当に価値があるものをお届けできてようやくそれを言えるからです。
という私も実際のところ、3年前に起業した当初は「自分の書にはあまり価値が無い」というように思っていましたね。
起業時で28歳なので24年は書道していることになりますけど、それでも満足いくものが書ける瞬間なんてわずかですからね。
とりあえず「長い年月=高い価格」を生み出すというわけではないです。

【価格がいくらであっても良い字を書くのが前提】
砺波平野|富山県砺波市 

書道家という仕事はとにかく良い字を書くしかないです。 
良い字となると話がそれてしまいますが、どういうものが良い字なのでしょうか?
一個人の感情における”良い字”は、自分にとって都合の良い字、単純に好みで良い字ということでしょうが、ここでいうものは狭義のものではなく、広義における良い字です。
それは私が思うに、書に関わっていない一般の多くの方が良いと感じて頂ける字であるとともに、書道に関わる方が流派を超えて多くの人に良いと感じて頂ける字であることが、広義における良い字かなと思っています。 

以前「書道家になりたいのですが、それ一本でできるものでしょうか?」という質問もよく聞いたものですが、この答えとしてはまず第一に上記に挙げるような”良い字を書けていること”が前提でしょうね。
それは作品に限らず、実用書においても同じです。
また、この道で生きていく上で作品展における受賞歴などは特に必要がないことは、私のこの3年間が物語っております。

とにかく良い字を書くには、その裏付けとなるものも大切で、私の場合は古典臨書がそれにあたります。
あとは誰にも負けないほど納得できるまで書き込めること。
何より、良い仕事をするために意欲的に試行錯誤してきたバイト時代や会社員時代に積んだ経験が、今大きな存在となって、自分を怠けさせないようにさせています。

誰が何と言おうと、良い字を書いて良い仕事をすることがこの道で生きていくうえで一番大切なことで、それがお客様への一番の誠意であり正義です。

審美眼について考える

その次に必要なものは時代に合った経営の能力でしょうね。
良い字を書ければ価格を決めれるという単純なものではなく、それぞれにおかれた環境に応じて判断していかなくてはいけません。
単純に捉えると、5,000円の仕事を10回するのも、50,000円の仕事を1回するのも、売り上げとしては変わりません。
私の場合は一気に価格を高価格帯にしようにも、尊敬する師匠や先輩方の足元には及ばないですし、今はまだ多く依頼を頂いてお客様と触れあったり、様々なお声を頂きながら道をつくっていきたいなと思っているので、程ほどにコントロールしています。

そのため、時々私を一気に有名にさせようとか、売り出すために巧妙な営業トークで電話してくる業者もいるのですが断っております。
私は地味で良いです。
テレビに出ないできているのも、そういう点でコントロールするためです。
自分の情報発信は基本的に自分のコントロールできる媒体でしか行いません。
それは実力とリンクしない知名度・期待がかかると、事業や人として間違った方向にいくからです。
これもまた、作品の価格を適正にコントロールするためには大切なことです。

審美眼について考える

先日「作家のホームページは自ら更新&発信しないと伝わらない?」という記事を投稿したのですが、結構多くの方にご覧頂けているようです。
この価格決定を含めた、活動の意思決定においても、書道家自らがなりたいように舵を切っていかない限り、事業は上手くいかないと思っております。
小さい事業規模では、マネージャーは余程意思を共有できて、マーケティング能力に長けた人しか必要ないでしょう。

ここまで記してきたことは他のジャンルの作家業においても同じようなことが言えると思います。
市場原理のなかでは、”安いから売れる”とか”高いから売れない”という単純なものではありません。
それに見合った、またはそれ以上の価値を見い出せるものしか求められません。
だからこそ、利益とばかり向き合うのではなく、現実と向き合って良い仕事をすることが求められています。

私もお客様により価値あるものを提供し、より喜んで頂けるように成長していきたいです。

この記事の著者

藤井碧峰

1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。

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