藤井碧峰
1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。
INFORMATION
筆と名の付くものは100均ショップでも売られていますし、ホームセンター等でも数百円程度の筆が売られています。
もちろん筆の形をしているので書くことができますが、そうなってくると安い筆と高い筆とでは何が違うのか気になりませんか?
高い筆と言っても価格幅が大変広く、私がよく使用する数万円程度の筆もあれば100~200万円もするような超高級筆もあります。
イベントや書道用品店、筆の製造元に行ったりすると時々その筆を見せて頂くことができますが、1頭の山羊から数本程度しか取れない毛を集めて作っているので1年に1本しか作れない筆だったりします。
さすがにそのような筆は触らせて頂いたことしかないのですが(笑)、現実的な範囲で何が違うのか検証して参りましょう。
2021年8月13日投稿の
「【研究】高い筆(主に羊毛筆)と線質(渇筆)との関係」
にて更にマニアックに深掘りしております!
今回は100均ショップD社の筆と書道メーカーさんの2000円の羊毛筆(ひげ)の比較をします。
↓100均筆
↓2000円筆
まず最初に、100均筆は最初から抜け毛が酷いです。笑
墨を付ける前に浮いている毛が沢山ありますし、墨を付けても毛が抜けます。
この時点で丁寧に作られて”いない”ことがよく分かります。
あとは穂先の毛の長さが整っておりません。
この差が微妙に書きにくくなる原因になります。
2000円の方はこの点に関して問題は無いので画像は省略します。
ただし経験上、1000円以下の筆は抜け毛が多いような気がします。
今度はそれぞれの筆で書いた字と筆のインプレッションをして参ります!
最初は楷書を見て参ります。
九成宮醴泉銘より「微風」
100均筆↓
2000円筆
どうでしょうか?
まず100均筆は名前が面白いくらいまともに書けません!笑
そしてこの2点を比較してみて一番気になるところは左払いの箇所です。
100均筆は筆がバサバサしていて、変に反発力もあるので勝手に筆が払ってしまうような感覚がありコントロールしにくいです。
そのため字形も狙ったように書けません。
もちろんコントロールして書けば問題無いのかもしれませんが、あえて意識せずに書いた結果こうなりました。
書道されている人ならご存知のことでしょうが、書道的にはこういう線は良くありません。
最後まで筆圧を掛けて払わなくてはいけません。
↓こちらは6000円の筆(兼毫筆)で書いた字
こちらの字はキレは意識せずに太い細いを意識して書いた字ですが、筆が素直に動くので線が滑らかな感じです。
次は行書で見てみましょう。
文皇哀冊より「對越」
↓100均筆
↓2000円筆
行書になるとスピードが必要になってきますが、そうなってくると100均筆のバサバサ感が邪魔をして非常に書きにくくなります。
「對」は太くしようとして書いてみましたが、圧を掛けても微調整しにくくて極端な太さになってしまいました。
一方で2000円筆の方は100均筆に比べてしなやかな分、太い細いの変化を自然に表現できます。
頑張って書いても筆が悪さをするので↓のような残念な線が出ます。
いかにも安っぽい字です!笑
毛が粗い分、墨の含みも悪いため途中で墨の供給が足りなくなりこういう品の無いかすれが出てしまいます。
毛にしなやかさがないため方向転換する時に変な線が残ります。
こちらを2万円の羊毛筆で見てみます。
ここまでくると字としての雰囲気が全然変わってきます。
当店の本格的筆文字Tシャツはこの筆を使うこともよくありますが、やはり筆が良くて線が良いと魅力的な字になりますね。
”かすれ”を出し過ぎていて比較しにくく申し訳ないですが、それでもかすれもそれほどいやらしさもありません。
次は隷書で見てみます。
曹全碑「養季」
↓100均筆
↓2000円筆
隷書は分かりやすいかもしれませんね。
100均筆の字は不鮮明に見えませんか?
線が不鮮明です。
筆のバサバサ感が伝わってきます。笑
字として認識しにくくする要素はあまり好ましくないですよね。
こちらでは100均筆について感じたことを箇条書きでまとめてみます。
・抜け毛が多い
・穂先の長さが不揃い
・バサバサしていて線が汚い
・墨が持たないので、字の大きさによっては1字の中で何度か墨継ぎが必要
・反発力が不自然で書きにくい
・臭い
・筆を洗う時になかなか墨が抜けない
これはD社の100均筆でしたが、特に臭いのが特徴と思われます。
Instagramで同じ筆を使用されていた方も同じことを言っておられたのでこれは一番自信を持って言えますね!笑
あとは筆の大きさのわりに無駄に墨の抜けが悪くて洗うのが大変です。
いつも途中で諦めて吊り下げておいて、後で穂先に墨が下りてきてからもう一度洗うようにしています。
子供が使うとすぐに筆が固まって割れるでしょうね。
値段が値段なんでジュース買うような感覚で頻繁に変えるのもありかもしれません!
マイナスなことばかり書いてありますが良い点もちゃんとあります!
・100円でも一応筆として機能する
・臭いのでどこにあるか分かりやすい
・ペンキ等の二度と使えなくなるような塗料を使って字を書くときに使い捨てしやすい
・硯で墨を磨った時の墨流し(他の入れ物に移動)用に使用
100均も色々あるので試してみるとメーカーによって良し悪しがあるかもしれません。
こちらはInstagramで100均筆が流行っていた時に書いた字です。
100均に見えないように色々試しています。
頑張っても微妙なことには変わりありませんが、書道に興味無い人が見ると何が違うのかわからないかもしれない程度にはなるかもしれませんね。笑
一番上の「金紫」なんかは一番100均筆らしくない書き方をできていると思います。
100均筆らしくない書き方をするためには以下の点に注意して書くと良いと思います。
・筆にどっぷりと墨をつけて書く
・速く書き過ぎないように気を付ける
・太い細いを極端につけてみる
・毛がバサバサになりやすいのでこまめに直す
実際には書いている時にどんどん抜け毛が出てくるので集中して書けません。笑
違う意味で難しい筆だと思います。
たぶんちゃんと筆のことを勉強された方じゃないとどれも同じに見えるか、
・ちょっと太さが違う
・毛の色が違う
・毛の長さが違う
程度にしか見えないかもしれません。
私自身、知り合いから高い筆と安い筆の違いについて聞かれることが多いので記します。
(※個人的に書道専門店、筆メーカーに聞いたことなので、完璧な答えではありません。)
・筆の職人さんには伝統工芸士もいらっしゃいますし見習いや若手の職人もいらっしゃいますので、同じ毛の質でも作る職人さんによって値段が変わる
・人間が髪の毛を切る時に”髪をすいたり”しますが、筆を作る工程でも毛をすきます。この”スキ具合”によって結構書き味が変わります。この工程によって手間が掛かる分値段が変わる
・使用している毛の質や量が違うと値段が変わる
なら中国産の筆は同じような毛で作られていて安いけどどうなのか?という点ですが、当たりはずれがあるらしく、やはり日本人は丁寧なモノづくりをするため品質の高い分ばらつきが少なく安心ですね。
「良い筆を使うと上達する」
これは間違いないと思います。
先ほどの100均筆のインプレッションでも書きましたが、これは安い値段帯の筆全般に言えることで、コントロール幅が小さいように思えます。
私の先生の教室に来ている生徒さんを何人も見てきましたが、親御さんの気合の入り具合で筆に対する投資額が変わり、上達スピードが全く変わってきます。
習いたての人にコントロールしにくいもので書かせても上達しませんし、”ちゃんと洗わないからすぐ筆を駄目にしてしまうし高いのは買えない”というのでは習字教室に通わせる意味を考えると本末転倒です。
そうして沢山の時間を無駄にして、”上達しない”と言って教室を去っていった人を何人も見てきました。
才能があっても開くこともなく終わるのはもったいないです。
私自身はどうだったかというと、小学校の頃から祖父母から誕生日プレゼントとして先生が選んでくれた5000円の筆を買ってくれたりしていたので良い筆を使っていました。
大人でも5000円の筆を使っている人はあまりいないようですが、良い筆ならちゃんと手入れすれば長持ちします。
実際に私は小中学校の頃から10年以上ずっと使っている羊毛筆が何本もあります。
減価償却で計算しても、上達することを考えても、高い筆というのは魅力的だと思います。
高い物には値段に合った要素が盛り込まれています!
私は競書冊子の写真版に載る時がありますが、たいてい渇筆について良い評価を頂くことが多いです。
毎月提出する課題や書き初め大会では、沢山の同じ字を書いた作品が集まるわけですが、その中で目立つものを書かなくてはなりません。
書き初め大会だと「元気よく、紙からはみ出るくらいに大きく、力強く太い線を入れる」とか言われますが、それも同じ字が並ぶ中での選ばれるための重要な要素です。
それに加えて、線が魅力的になると沢山の作品の中でも目立つ存在になれるですよね。
私が中学校の頃に出会った5000円の羊毛筆はたまたま良い筆だったこともあるかもしれませんが、羊毛筆独特の線が簡単に出る筆です。
あまりやり過ぎると品が無くなってしまいますが、こういう線があるのと無いのとでは大違いで、白黒の世界に立体感を作ることができます。
これが書道を更に面白くする要素だと思います。
実際に書いている対象は平たい紙ですが、如何にして字を浮かび上がらせるか。
非常に奥が深いですね。
私が師匠から聞いたお話を書きます。
師匠の師匠は有名な先生でしたが、元々は字が上手くなかったそうです。
そのため師範学校に行っていた時に全然書道に対する関心も無かったとのこと。
ある時父親が中国に出張か旅行に行ったときに現地で買ってきた筆をお土産にもらいました。その筆で書いた字を学校の先生に見せたときに先生にべた褒めされて、「自分は上手いのかも?」と錯覚して熱心に書道に励むようになったら全国でも有名な先生になったそうです。
だから一本の筆がその人の人生を変えることがあると言っても過言ではありませんよね!
じゃあ「弘法筆を選ばず」という言葉は嘘なの?という話ですが、嘘だと思います!笑
上手い人なら駄目な筆でもそれなりに書けるという意味ではないでしょうか?
車でもそうですが、サーキットで軽トラやファミリーカーで走っても速い人は速いです。
でもいくら頑張っても本当に速い車には勝てないのと一緒で、プロレーシングドライバーが精一杯軽トラで走っても速い車に乗った一般人にはなかなか勝てません。
そういうことを考えると競書課題や作品展に同じ字の箇所を書いて出したときに、100均筆を使用しているような人と、高級な筆を使用している人とでは雲泥の差だと思います。(極端すぎますね笑)
ではどんな価格帯の筆を買おうということが気になってきますが、初心者の方は習っている先生にお願いして選んでもらうのがベストだと思います。
先生は一番その人の実力を知っているはずですので、先生がその人のレベルに合わせて書道専門店等に相談して筆を選んでくれるはずです。
ウチの教室の小学生にもよくありましたが、小学校の教材販売で売られているものは品質があまり良くないと思います。(モノによると思いますが)
実際にその筆を持って書いてみても、同じ価格帯の筆よりも劣っているのが分かります。
兎にも角にも自分の先生にお願いして選んでもらうことをお勧めします。
私自身、筆を書道専門店に行って自分で選んで買うようになったのは師範の資格を取ってからです。
何が良い筆なのか分かり切ってない状態で買うと失敗する確率も高いので要注意です。
ホームページの商品紹介やカタログも存在はしますが使っている毛のランクや大きさくらいしかわからないため、実際に本物に触れると印象が変わることもあります。
買う前に一度水書きすると筆の雰囲気を掴めるので是非お試しください。
最後に書道家の藤井碧峰より一言。
筆はその人の人生を変えるような道具ですので大切に選びましょう!
□■□■□■□■□■□■□■□■□□■□■□■□■□■□■□■□■□
藤井 碧峰 (Fujii Hekiho)
〒939-1322
富山県砺波市中野252
090-6812-3391
info@original-sho.com
【藤井碧峰書道教室】(https://original-sho.com/jetb/blog/2813/)
<砺波教室>
砺波まなび交流館
(富山県砺波市栄町717)
曜日:第1,3,4金曜日 9~12時&18~20時半まで
<金沢教室>
金沢市薬師谷公民館
(石川県金沢市不動寺町イ34−1)
曜日:第1,3,4水曜日(18~21時)
□■□■□■□■□■□■□■□■□□■□■□■□■□■□■□■□■□
CLOSE