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書道における渇筆の魅力①|かすれの良し悪し

渇筆とは?

渇筆(かっぴつ)とは筆の毛に空気が入り込むことにより生まれるかすれのことです。
この渇筆の使い方によって2次元で書かれる筆文字を立体的に浮かび上がらせることができます。

しかしながら、単にかすれさせれば良いというものでもありません。
また毛の質によっては出さないほうが良いかすれもありますし、良いかすれも出しまくると良いものでは無いという奥の深い要素です。  

渇筆の魅力とは?

書道における渇筆の魅力①|かすれの良し悪し

渇筆の魅力は、上手く利用することによって力強さ、勢いや迫力、優しさ、温かみを表現することができることです。

例えば↓の仿古堂の高級羊毛筆、遠鷗で「遠鷗」と書いた字。(2018年書)
墨の濃い箇所は深く、墨の薄い(かすれている)箇所は浅く見えます。

渇筆を出すには筆の質はもちろん、紙、墨、また書き手の腕、室内環境など色々な条件が重なります。
出し過ぎでも見苦しくなりますし、全体のバランスを取るのが非常に難しいです。
それ故に書道の経験、センスが重要となり、その意味を正しく理解している書き手にしかできない技術と言えます。

今のネット社会では、簡単に書について調べることができ、無数の手書きの作品の画像が出てきます。
何でもない稚拙なものも沢山あるのを確認しておりますが、それを言葉巧みに立派に見せられると素人目にはすごく感じてしまうのも現実です。

その点、書道の世界で正統に鍛えてきた渇筆は別物です。 
恐縮ながら私の手による渇筆にて説明させていただきます。

渇筆(かすれ)の分類と使い分けは?

書道家藤井碧峰はそれぞれの作品、言葉の意味に合わせて渇筆の種類、雰囲気を変えています。
これがネット上の多くの書道家には真似出来ない要素だと思います。

渇筆(かすれ)には潤いのある渇筆と乾いた渇筆があります。
潤いのある渇筆のなかにも、ポコポコとした飛白の部分が出ることがあるのですが、これが頻繁に出るのが私です。

一方でこちらは兼毫筆による乾いた渇筆。
紙と擦れている感じがお分かりいただけるでしょうか?

乾いた渇筆も良い時は良いのですが、単純にガサガサしているかすれだと平面的に見えて、魅力が無く見えてしまいます。
ここであえて書き方を変えましたが、私のなかでは魅力のあるかすれを【渇筆】と呼び、魅力が無いかすれはそのまま【かすれ】と呼びます
”かすれ”ってかすり傷やかすれた声のようなマイナスなイメージが多いから、自然とそう捉えるようになったのかもしれません。

上の字は同じ古典の同じ箇所を切り出したもので、半切2行書きの2行目の最初の2字です。
右側は結構前に書いたもので、左側は少し前に書いたもの。
潤いのある線と乾いた線の違いが分かりますか?(分からない方は一発退場です笑)

以前から作品における墨の付ける箇所は変わっていないですし、筆は違うものの左のほうが良い紙・墨を使っていたので、単純に技術力の向上による差が出ています。
右のは線が浮いてしまって、墨が紙に入っていっていません。
左のは紙の奥まで墨が浸透しています。

墨が抜けていった時に、線が細くなるだけなのは技術が未熟だからです。
単純に太いだけの字ならうるさい、黒いだけの作品になりますが、黒の中に渇筆が入ることで余白ができ、それを防ぎながら魅力的に変えていきます。

渇筆を出す筆はどんなもの?

かすれなら誰にでも出せます。
筆を速く動かして書くか、墨を濃くして書くとかすれば誰でも出せます。

魅力的な渇筆を出せる筆2種類をここでは紹介します。
綺麗な渇筆を出せる筆の代表例は、主に羊毛筆と言えます。
一方でここでは荒々しい渇筆が魅力的で、相対的な存在の山馬筆も取り上げます。

道具オタクの道具選び|主に羊毛筆の話。他に墨、紙、硯など

筆も字に合わせて変えますが、まず多くの人が好きな羊毛筆による渇筆が先述のもの。
羊毛と言いつつ、中国のヤギの毛です。
重厚な線を出せる筆もあれば繊細な線を出せる筆もあります。

↑の写真の羊毛筆を使いこなせる人は書道をしている人でもあまり多くおらず、非常に柔らかく、取り扱いも難しいです。
値段も質も下から上までキリがなく、私の持っているもので50万円を超える羊毛筆もございます。
しかしその代わりに得られる線の質が非常に高いです。

こちらは山馬筆で、南側のアジア地域に生息しているサンバー(鹿科)の毛を使っています。
車オタクとしては、いわゆる農道のポルシェ、スバルサンバーの名のもとになった動物です。
もう日本に輸入できないので作れない筆であり、筆屋さんに聞いても在庫が少ない筆です。

この山馬筆もまた結構高く、良いものは半紙2字用のサイズで5万円はします。
非常に硬く扱い辛いのですが、荒々しく力強い渇筆を表現できます。

書道における渇筆の魅力①|かすれの良し悪し

何を言っても書道は線が非常に大切!

色んな先生方とお話しますが、やはり書道は線が非常に大切です。
これを磨かないことには、客商売としてはお客様に本当に良いものをお届けできません。

特に私の場合は看板や商品の字(ロゴ)を手掛けているので、日々多くの字を関心持って見ているのですが、時々手書きを無理に使わなくても良かった事例を見ることがあります。
そのため、この記事を見た方一人でもそんなことが起きないようにと思って、説明的に本音で書かせていただきました。

この記事では渇筆の魅力をお伝えしつつも、実際には渇筆無しの線でも勝負できる人でなければ大したことが無いと思っています。
よく「藤井先生は線が凄く良いですね」と言われて、ありがたいのですが、その多くが渇筆のことを仰っていて、「どうやったらあんな線が出るんですか?」と続いて聞かれて、何か着眼点が違うんだよなと感じます。

渇筆は渇筆を出す技術として使っていません。
良い渇筆はシンプルな良い線を鍛えていった上で出てくるものです。
ちゃんと紙に墨を入れる技術がまず無いと無理なことです。
例えば命名書のような色紙書きでも、色紙は結構墨を入れるのが難しいので、高い技術が必要です。

線の質を高めることで書のデザインの質は行って帰ってくるほど変わってしまいます。
そしてデザインにおける訴求力もかなり変わってしまいます。
それをもっと多くの方、デザイン業界の方々にも知っていただきたいですね。

渇筆は人それぞれ雰囲気に違いが出てくるため、その書き手を選ぶ、その書き手でなければならない要素が大きく存在します。
一目で見てそれだと分かる、そんな作品や看板・商品ロゴづくりが欲しい方には知っていただく、これからもそれを訴えていきたいと思います。

【参考】額装・軸装作品の制作金額|オーダーメイド書道作品|書道家藤井碧峰

この記事の著者

藤井碧峰

1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。

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