藤井碧峰
1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。
INFORMATION
この度、株式会社文化財構造計画様の【犬殿プロジェクト】で扁額揮毫を担当させていただきました。
もしかすると今朝のTBS「THE TIME」でご覧になられた方もいらっしゃるかもしれません。
日本最高峰の技術を結集した、本当に素晴らしい内容のプロジェクトなので、変に私の言葉を挟まないようにして引用させていただきます。
犬殿プロジェクト
日本の伝統的な社寺建築は、宮大工の高度な技術によって、優美な屋根の曲線や、複雑な組物、細やかな彫刻などで構成されており、日本建築の伝統美が凝縮されています。 犬殿プロジェクトは、この美しい建築様式を用いて、誰も見たことがない最高級の犬小屋を作るという企画になります。犬小屋の「小屋」には粗末な建物という意味が含まれますが、優美で贅沢な犬の住まいですので、立派な建物を指す「殿」の言葉を使い、「犬殿」と名付けました。
<正面>
<側面>
<隅の斗組>
<軒>
<大棟と鬼板>
<内部見上げ>
ただの社寺建築のミニチュア模型ではなく、「本物」を製作することが犬殿プロジェクトの目的です。
文化財構造計画様はホームページの実績をご覧いただければ分かるように、文化財建造物の保存と活用のために日本全国で活躍されております。
代表の冨永善啓様よりご連絡いただいた際に、南砺市や高岡市にお越しになられていたというお話もいただき、身近に感じました。
南砺市五箇山にある「合掌の里 茅葺建造物(旧山下家住宅)」も手掛けられております。
つまりこの犬殿プロジェクトの仕事のお話をいただいている時点で、本物を提供できないと不味いということです。
冨永様が手掛けている仕事は、伝統あるものを責任もって次の時代へ残していくことで、「できませんでした、失敗しました」ということがあっては絶対にいけないものです。
そこにご一緒させていただく自信は・・・、自信も何も自分のスタンスである古典に書の正統性を求めることで、本物をお届けすることができると信じて受けさせていただきました。
これは自分自身の挑戦にもなりました。
私は富山の雄山神社に関係している者でもありますが、他の方に比べても割と伝統的な建造物に触れている人間だと思います。
そうした場所には扁額や掛軸など、書人として目にすべきものが沢山ありますので、写真等に収めて仕事に活かしたりしています。
今回は更に資料集めをして、扁額についてより学んだうえで制作させていただきました。
普段全体を映した動画を撮らないため少し緊張しておりますが、犬殿の扁額ができるまでの様子を素敵な動画に仕上げていただきました。
「犬殿」は作品では右から左に読む「殿犬」となるのですが、これもどう書くのが正統かを冨永様と打ち合わせしていったうえで決めました。
当初は字のデータのみのご提供ということでしたが、本物の作品があって、その写しが犬殿に使われているということの方が大切だという、冨永様の熱い想いにより額も制作し、この字がホームページや扁額に使われている「犬殿」の字の原本となっております。
これには無理を申したところがありまして、私の書の特徴の一つでもある渇筆を扁額でも実現していただくようお願いしました。
扁額の字はインクジェットでの印刷ではなく彫刻で、しかも横幅10㎝弱のところに彫られるということで、想像を絶する大変なことだったと思います。
仮にも篆刻で印刀を扱う人間としても恐れ多いお願いではあったものの、”どこまでも本格的である”ということと、小さい空間のなかにも奥行きのある書を実現させるには必要不可欠であったと考えております。
そうして出来上がった扁額がこちらで、印まで本当に細かく表現されており素晴らしいです。
額装に関しても徹底的にこだわって制作されました。
木枠の色は黒タメというこだわった仕様で、単純な黒色ではなく若干茶色がかっており、色の塗りが多い分奥行きのある上品な艶が出ております。
今後の展示会等で実物ご覧いただければ一番ですが、非常に素晴らしいものです。
何もかもを本気で取り組んだ犬殿プロジェクトですが、ホームページも徹底的に作られているようで是非ご覧いただきたいものですが、実際に犬が犬殿を使用している写真もあります。
正直微笑ましいです。
ちなみにこの犬殿、誰でも購入できる価格ではなく【$150,000~】の設定となります。
つまりは今のレートで換算すると【約2,015万円】ということになります。
製作は1年に1棟ずつしかできないということで、今回試作されたことでもっと作ることも可能となりそうですが、これには犬殿ホームページでも記載のあるように、単純な売上目的で作るものでは無いため、そうはされません。
今回の犬殿プロジェクトは、伝統社寺建築の技術で作られた犬小屋を売るという内容ですが、ただ商品を売るだけにとどまらない試みだと考えております。犬殿という製品を通して日本海外を問わず多くの方にその価値を認められれば、伝統社寺建築の技術自体への認知も拡がり、価値の向上につながります。
伝統的な社寺建築の新築が減ってきている現在においては、実力を持っていてもその腕の振るう場所のない宮大工さんはたくさんいると聞いております。そういった方の技術を発揮する場として、また技術を知ってもらう場として、このような形での取り組みもあるのではないでしょうか。この一石をきっかけにもっといろいろと新しい取り組みが生まれて、その技術を世に出してほしいと思っております。
この犬殿は、「日本の社寺建築を製品として売る」という新たな取り組みになります。世界に向けてこの犬殿に値段をつけて販売するということは、世界に向けて日本の伝統社寺建築の技術にいくらの値段をつけるのかということになるかもしれません。値段とは評価です。これだけの技術は世界に誇るものであり、高く評価されるべきものだと思っております。そのようなことを考えて金額を設定しました。たかが犬小屋を売るだけで大げさかも知れませんが、それだけのことを語るにふさわしい品質であると確信しています。
この犬殿プロジェクトによって、日本の伝統建築技術の価値が世界の中で認められ、技術を表現する新たな方法のひとつとなればうれしいと考えております。
こうした想いのある人、仕事に私は弱いですね。
優れたプロダクトを作ることは前提ですが、これからの時代を作っていくのは想いであると信じていて、こうして本物の方々と関わらせていただくなかで学び、私も成長していけます。
冨永様とのやりとりのなかで、「この犬殿は建築史専門家の中で最も美しいとされている鎌倉、室町期の木割やディテールを元にして製作されていて、古典臨書に基づかれる藤井さんとは同じスタンスだと思います」との話をいただいたことがあります。
非常に光栄なことでありますが、古き良きものに学び、本当に良いものを次の時代へと残していくことは、多くの分野において大切なのでしょう。
私は書の世界における古典に書の正統性を求める、ということは、書にそれほど興味関心が無い方を相手にしたとしても、どことなく人の心の奥底にある懐かしさのようなものを感じさせる字をお届けできることに繋がると思っています。
それは建築の世界でも同じことなのかもしれません。
【犬殿(INUDONO)ホームページ】
https://inudono.com/
【犬殿YouTubeチャンネル】
https://www.youtube.com/channel/UCFAXS8shE_KZInXfFmie_nQ
【株式会社 文化財構造計画】
〒532-0011
大阪市淀川区西中島五丁目13番地12号 谷ビル9F
TEL 06-4862-5651
FAX 06-4862-5652
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