【書家も歩けば書に出合う】|日下部鳴鶴、富山ゆかりの書家の書
砺波郷土資料館(旧中越銀行本店)での出来事
先日のことですが、砺波郷土資料館(旧中越銀行本店)の2階を公開される日だったので、興味があって行ってきました。
工事監督は地元太田の藤井助之丞氏で、母校福野高校の巌浄閣も手掛けられ、我が家の太子堂も手掛けられています。

何度か来ている場所ですが、建物に入るなり目に入ったのがこの石製看板。
『株式会社中越銀行』と字が彫られているのですが、どうにもこうにも字が良い。
シンプルで力強い。

日下部鳴鶴先生の雰囲気を感じて、時代的にもしかしたらと思ったものの、そんな話聞いたことも見たこともないし、砺波市内に石碑が3つもあって、ここまで集中的に存在しないだろうとも思いました。
過去に現地で見た石碑等はこちら↓で紹介しています。
富山と日下部鳴鶴の書|石碑・作品を紹介
並々ならぬ魅力を感じて、写真におさめつつも2階の展示を見てきました。
降りてきてもやはり気になるこの字。
帰宅後に砺波正倉のHPを見ていたら、「株式会社中越銀行」の字は日下部鳴鶴先生が書いたと記載があり、僕としては感激でした。
自分の目で判断できたことも嬉しいですが、北陸銀行へと繋がる中越銀行の当時の様子が少し想像できました。
北陸銀行さんには作品展示でお世話になっていますが、関わっている人間としてこの事実を知った喜びもありました。
中野地区にある石碑を依頼した藤井長太郎氏の名前は、中越銀行の発足人の一人として挙げられており、依頼するにもそういったルートがあったのではと想像されます。
ただいずれにせよ、当時の圧倒的な人気を誇った日下部鳴鶴先生に、高額である揮毫料を支払える経済人はごくわずかだったはずで、この砺波市内に僕が確認しただけでも4点の日下部鳴鶴先生揮毫の書が集中的に存在することが非常に面白い話で、当時の砺波地域の経済の興隆なのか、文化的意識の高さを想像することもできます。

「日本近代書道の父」と評される先生が生涯書いた石碑は1000基と言われ、看板もそこそこ書いているだろうと思いきや、あまり資料が無いのも事実です。
これからもまだまだ知らない、日下部鳴鶴先生の書いた字を見つけることになるでしょうが、これが自分の中での大きな楽しみになっています。
富山県内で書家の書に出合う
富山は書が盛んな地域ですが、それは幅広い流派が存在するという点でユニークです。
先述の日下部鳴鶴先生ですが、山田村の開湯は1200年前という「玄猿楼」も先生揮毫の看板を掲げていました。(数年前に閉業)

かつてのInstagram等を見ていると館内にある書も存在したことが分かり、もう少し早く関心があれば直接目で見ることが出来たのかなと、少し寂しい気持ちになったりもします。
一方で、こうして歴史ある、名高い場所には良い書があるのではあるのではという期待もあり、足を運ぶことも非常に楽しみであったりもします。
こちらは高岡市伏木気象資料館(旧伏木測候所)前の石碑で、鶴木大寿先生揮毫の書です。
手島右卿先生に師事され、富山大学の教授もされていた方です。


こちらは高岡市万葉歴史館前にある、深松海月先生の書。
大澤雅休先生に師事されていて、前衛書を手掛けられていました。


鶴木大寿先生の石碑も、深松海月先生の石碑も仙台石を使っているようで、非常に読み取りやすいです。
石は非常に重要なのであります!
こちらは有磯海サービスエリアにある、大平山濤先生の揮毫した松尾芭蕉の句碑。
大平山濤先生は金子鷗亭先生に師事されて、近代詩文書を広められました。

調べてみると富山県師範学校では深松海月先生と鶴木大寿先生は寄宿舎で同室であり、上級生には大平山濤先生がいらっしゃったとのこと。
上記は「富山県書道人志2」による情報ですが、3名の先生方は同じ本の中で紹介されています。
今度は、五箇山平村の相倉の合掌造りにある、民宿・展示館「勇助」さんの中にある書です。
大澤雅休先生による「深山大澤」の書が掲げられています。
こんな凄い人が隣村の砺波市太田村に来ていたのだと思う度に感激です。


そして建物内には、先ほど少し触れた「富山県書道人志」を手掛けられた宮崎重美先生の書もあります。
宮崎重美先生もまた、若き日に大澤雅休先生との出会いによって刺激を受け、前衛書も手掛けられました。
宮崎先生が五箇山の方だったこともあり、この地域には色々と書があるようですが、それを2022年の作品展で拝見したことがあります。
前衛の書 独自の美学 福光美術館で宮崎重美展:北陸中日新聞Web

こちらは三笑楽酒造近くの白山宮です。
大変古いお宮さんなのですが、宮崎重美先生はこちらの石標の字も揮毫されています。


このように身近に沢山の書家の書が存在しています。
”良い”と感じたり、”目を引かれる”と感じたものが藤井碧峰スマホギャラリーの中に蓄えられていくのですが、やはり良い書家の字は良く、そこに何か放っておけない魅力が秘められています。
作品、石碑や商品など幅広く書が活躍する舞台がありますが、活躍していない書が多くあるのも事実です。
いつもご依頼を頂く度に先人の書を眺めては、「自分は良い書をお届けしたい」と誓って、勝負に向き合います。

視覚的な要素を手掛けるので、最終的には書に限らず”モノとしてそれだと認識できること”が、大切だとも言えます。
そういう点で変わらないものを届け続けているという、日本酒剣菱のロゴマークには非常に感銘を受けていたりもします。(もちろん味にも
書家として生きているから気づくことも多いのですが、書って面白いし、良いものですよ。




