藤井碧峰
1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。
INFORMATION
最高級羊毛筆というものを4年ほど前から楽しんで集めて、時々使用しております。
最高級と言うだけに良い毛質のものを使用しているのですが、それはどういうことかと言いますと毛の細くて、毛の表面の凸凹の少ない、素直な毛のことを言っているようです。
(※メーカーさんのお話を聞いたり、自分で色々買ってみての感想を含む)
値段は大きさによってピンからキリまでありますが、感覚的には半切2行に漢字作品を書くような筆を買うとなると、定価で20~40万円はするというようなイメージです。
筆は消耗品と見られがちですが、この手の羊毛筆は使い込むほどに書き手に馴染んでくるので、一生の友と見て手に入れています。
この先も長く書道をやるつもりでいますからね!
こちら右に行くほど質の高い羊毛筆になっております。
と言っても分かりにくいと思うので、詳しくは
「【研究】高い筆(主に羊毛筆)と線質(渇筆)との関係|最高級羊毛筆」
こちらのブログをご覧いただければ幸いです。
要は上手く書けている時に、細かいポコポコとした渇筆、飛白の線が出るというのが、私が使った時の一番の特徴かと感じております。
毛が柔らかく細かいので、含んだ墨の中に気泡が入って、それがそのような線になるというイメージです。
これまでも金融機関における作品展では、最高級羊毛筆を使用した作品を何点も展示してまいりました。
それらの作品を紹介いたします。
【素朴】(35x68cm)
【清雅】(33x24cm)
【白馬入蘆花】(135x35cm)
【臨 褚遂良 「枯樹賦」】(135x35cm)
【星降る夜森の巨人達を横目に歩く美女平(自作)】(35x35cm)
【蕩蕩】(27x24cm)
【誠者天之道也】(135x35cm)
【先義後利】(45x35cm)
【守清虚】(68x35cm)
【幽雅】(34x18cm)
【花無心招蝶】(135x35cm)
本来は感じていただいたままに最高級羊毛筆を味わっていただければいいのですが、補足しておきますと毛が細かく、長鋒~超長鋒の筆を使うことがほとんどなので、息の長い渇筆が出ているのが特徴です。
色で例えると渇筆があることによって、単純に白黒の世界だったところにグレーが混じります。
単純に黒だったら作品が平面的に見えたり、うるさく見えたところも、線の中に白があることで余白がより綺麗に見えるようになりますね。
お客様から額や掛軸の書作品のご依頼を日々受けているのですが、書の内容やご予算によっては最高級羊毛筆を使用しての制作を提案させていただいております。
何故ご予算に影響するかと言うと、磨墨(硯で磨った墨)でないとこの筆を活かしきれないという点と、一部の良質な紙でしかこの渇筆が出せないという点、他にも秘密の条件があるため書くのが大変という点で、どうしても少し予算が掛かります。
また書の内容という点ですが、あまり渇筆が多くなると作品として雰囲気が良くても可読性に問題が出てくるため、何でもOKというわけにはいきません。
そんな中でお客様からご依頼いただいたのがこの作品たちです。
【生涯懶立身(良寛)】(135x35cm)
意味に合わせて、気負いしない自然体の、優しい表情の出るような書を意識して揮毫したものです。
掛軸が出来上がった時、余白が綺麗な作品に仕上がって、書き手としても嬉しかったです。
ご依頼者様の娘様の新築祝いに数寄屋風の和室に似つかわしい書を、ということで書かせていただきました。
2枚の写真は、飾っているところを撮っていただいたもので、新しい床の間の空間にも非常に雰囲気に合っていて良いですね。
【信言不美。美言不信。知者不言。言者不知。(老子)】
お客様の好きな老子の言葉を組み合わせたもの。
同じ言葉が繰り返されるうえで、”言”という漢字が何度も出てくるため、草書ベースで組み合わせて書きました。
正統派を名乗る以上、古典臨書をベースとして幅広い書体に対応しながら、最も自然で最も美しい形を求めた先がこの書でした。
お仕事として受けて良いか悩むほどの非常に難しい、難題中の難題でしたが、お客様のご依頼に応えながら一つ目指している形を実現できたという、良い記念になった作品です。
いや、そもそもお客様のご依頼によって成長し、歩んできた書家の道ですから、今回もご縁に感謝するばかりです。
軸装に関しては、先述の「生涯懶立身(良寛)」の作品の軸に合わせて作って欲しいということで、同じように制作させていただきました。
軸装はそれぞれの作家ごとの感性もあって成立するものと考えておりますが、一つの良い型として認めていただいた気がして嬉しい限りです。
私にしか出せない味とは、後になって幅広く確認してみないと断定できないことですが、もしそれがあるとしたらこの最高級羊毛筆による渇筆を活かした作品制作は、何か一つ約束できるものかもしれません。
一方で、渇筆をほとんど使わない、純粋な線質を活かした書も私の書の特徴の一つであります。
それは相反する要素のように見えながらも、実は背中合わせの技術であることを私は知っています。
硬い筆でも柔らかい筆であっても、その毛の中の芯の部分を捉えて書くことが、真の線質を求めることだと信じています。
その感覚を得られるかどうかも書き手に委ねられいますし、私は30歳過ぎで得られたこの一つの答えを、今後の何十年に賭けて言い続けたいと思います。
そんな理論なんて本当はどうでも良くて、良いものをお届けするのが私の使命です。
その一つの選択として最高級羊毛筆による作品制作があれば良いなと思い、今回の記事を書くに至りました。
興味がございましたら是非お問い合わせくださいね。
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