藤井碧峰
1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。
INFORMATION
今回の「書の三人展」で、砺波市にある旅館【川金】の題字を揮毫された方が、同じ中野で活躍されていた書家の藤井一南先生だと知り、長年の疑問が解決されすっきりした私です。
というのも小さい頃から色んな場所で見かける「川金」の字を見ては、良い字だなと感じていたからです。
そして、お世辞抜きに川金さんは良い宿なので、家でも催し事があればお世話になっている、安心・信頼の宿だったりします。
良い書は、それを飾ったり掲げる人の考え方、人となりや、事業の姿を表すものです。
自分自身、県内外の様々な場所へ出かけて良い書を見かけたりしますが、「たしかで、良いものへのこだわりがあるから、この書を選ばれたんだな」と感じることがよくあります。
今回、書家として中野で活躍された先生方の、そんな書の数々を拝見して、そんな考えが間違いないと確信した次第です。
少し前の時代の書はやはり品格が高く、学ぶべきことが多いと思っております。
この記事ではそんな書を紹介させていただきます。
こちらは水上碧雲先生揮毫の【大喜院釋迦堂】。
正統派の書で、正面を向いた雰囲気の石標です。
水上先生は綺麗で分かりやすい書であることを大切にされていました。
こちらは砺波市安川の薬勝寺にある五百羅漢周辺の石標の数々のごく一部。
平成7年頃のものなので、先生が70代で書かれたものです。
8年ほど前にも見たことがありますが、今回改めて訪れて水上先生の凄さを知りました。
水上先生のことは「息を吐くようにして綺麗な字を書かれる人であった」と、一人の弟子として表現させていただきたいと思います。
この中にある石標ほとんど書かれているんですよね。
こちらの石碑は字数が大変多いですが、とことん綺麗に書かれていて圧巻以外の何ものでもありません。
書くのに何度もやり直して、何日もかかったと仰っていた気がします。
【砺波建設株式会社】の看板は、砺波市新明にある同社の玄関にあるもの。
【砺波市立中野幼稚園】の看板は、中野幼稚園があった場所にあります。
どちらも若い頃に書かれたものだと思いますが、後に繋がる水上先生の堂々と前を向いている雰囲気があります。
冒頭で触れた「川金」は砺波地域の人に馴染みのある書としてあまりにも有名ですが、藤井一南先生が揮毫されたものです。
中野地区にかつてあった【山だや】という旅館も、藤井一南先生が揮毫されていました。
昭和50年代にはここで中野の作家5名(藤井一南先生、飯田乕山先生含む)で個展もされていたようです。
中野の2つの旅館の看板を揮毫されていたという点で、物凄く人気があったのだと感じました。
中野地区の【公民館だより】は藤井一南先生が揮毫されていました。
力強くてグッとくる、目にとまる題字です。
こちらの看板(表札)の数々はご自宅周辺にあるもの。
今回藤井一南先生の書を沢山目にして、その多くが動的であり、力強い線が魅力だなと感じて見ておりました。
いたるところに書かれたものがあり、書をとことん楽しまれていたことが想像されます。
砺波市新明にある聞願寺で上部を眺めると、飯田乕山先生が揮毫されたダイナミックな書を彫られた額が掲げられております。
こちらは中野7区の公民館にある【第七区集会所】の看板。
動きがあり、見ていて楽しくなる看板です。
砺波市立出町中学校の「校歌」と校訓【天資養活 自他共栄】も揮毫されています。
教員として在籍されていたとのことで、同窓会記念誌の題字も揮毫されております。
また【砺波市美協四十年】の冊子の題字も揮毫されております。
こちらご自宅にあるものですが、これ以外にも色々なものに字を書かれています。
先ほどからの揮毫作品をご覧いただければ分かるかと思いますが、変幻自在に様々な書の顔を持っていらっしゃる方だったことが想像されます。
この「書の三人展」を実施した理由の一つとして、企画者である私自身、書家の身として日々感じるのは、我が地域のみならず、今の日本では書が身近では無くなってきており、大切にされていないと感じることが多々あるということが挙げられます。
先人が残した良いものが今も身近に沢山あるなかで、その良さ、素晴らしさを知っていただくことで、多くの方に大切にしていただける流れを作るため、この企画を実行するに至りました。
三者三様に異なるというよりも、三者何十?様か分からない程、3人の先生方の書は多様に変化しており、それが一つの部屋でお分かりいただけるという内容でした。
書が分からない方には、書は一つ一つ雰囲気が違うということを知っていただくだけで、大きな一歩なのです。
今回は地域の書だけですが、次は掛け軸や額などの作品とともに紹介させていただく予定です。
今回の調査で沢山の場所に行ったり、それに関わるご家族の方々、かつての生徒さん、先生方を知る方々に出逢いましたが、やはり冒頭の言葉のように「良い書は、それを飾ったり掲げる人の考え方、人となりや、事業の姿を表すもの」という点が感じられました。
そして、今も書かれた方が伝えられていたりして、その書を愛する方々、大切にしている方々の強い想いも感じられました。
私自身も今を生きる書家、経営者として、この事実を決して他人事のようには思えないのです。
仕事柄のこともありますが、表面的な字ではなく奥行きのある確かな書を見た時、やはり期待値は高くなりますし、人として付き合った時にもそんな書を求める人は良い意味で何か違っているなと感じます。
やはり良い仕事をする人、自身の進歩であったり豊かさを求める人は、それなりに有する感性があって、その先に良き書があるのではないかと思います。
今を生きる書家としては、そんな方々に求められる書き手にならなければならないと、強く感じる良い機会になりました。
これが「書の三人展」です。
この後も続きます。
他の【書の三人展】のまとめ記事ついてはこちらのページよりご確認ください。
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