藤井碧峰
1990年2月富山県砺波市生まれ。平成生まれの若手書道家として、古典臨書に基づく正統派の書が持つ本物の字の良さを追求しながら、現代的で、誰よりも敷居の低い、身近な書道家を目指して活動しております。第七回比田井天来・小琴顕彰佐久全国臨書展 天来賞受賞。令和元年、日本三霊山 立山山頂 雄山神社峰本社に看板奉納。
INFORMATION
11月2日に地元の振興会館がリニューアルオープンを控え、ずっと気になっていた建物横の石標の字に墨入れをさせていただきました。
下のほうの「像」の字が特に色が抜けて尚更気になる状態に。
先日、会長と公民会長の2人と一緒にお会いする機会があって、この石標の話をしたら2人とも気になっていたそうで、そりゃ字書きで変わっている(笑)自分がやるしかないなということで進めました。
「元中野村長藤井四右衛門先生御像」と記されているのですが、我が家の本家のご先祖様なので、それまた自分が適任です。(※と自分に言い聞かせて、気持ちを奮い立たせます)
なお、字を書いた方は不明です。
四右衛門先生の行われたことも何度か村史で学びましたが、起業魂のようなものを感じました。
上善若水。水は万物を利するが常に低きにつく。最高の善も水のごときもの。
そんな言葉が似合うかもしれない方です。
やると言ったものの、石への墨入れの経験も無いわけで、あとは経験と知識で頭を使うのみです。
見識というのはどこまで役立たせるかですが、今春に石川県の小松市へ行った際に墨書土器というものを見て、8~9世紀頃の土器に書かれた字が見えるのを見て、墨でいけると勝手に感じまして。
あとは車関係の塗装の知識と掛け合わせてやってみました。
墨入れしても簡単に剥離しても良くないですし、色が弱くても駄目です。
元々石はあまり墨が乗らないのでその点も厄介ですね。
もちろんペンキも検討しましたが、やはり墨が好きです。
先に石標を隅々まで水で洗いながら様子を見ていたところ、石自体はちゃんとしていましたが、表面の墨が雨や雪、風等の影響ではがれていった感じでしたね。
その後乾燥させて、また肌を触って、墨で進めることを決めました。
墨入れは色んなサイズの筆を持って行きましたが、結局一本で全てこなしました。
ただ字の部分に墨入れすると言っても立体となると結構難しいもので、繊細な穂先の感覚がモノを言います。
あと私はたまたま今年から彫刻表札の仕事をしていることもあり、墨入れで鍛えられて技術が伴い、成立した作業のようにも感じました。
墨入れして出来上がった状態がこの活き活きした石標の姿で、明るい感じになりました。
やはり黒がしっかり入ると字とは活き活きするものです。
振興会館の方々にも早速良い出来になったと喜んでいただけました。
彫刻表札で分かっていたことは、字を彫刻すると立体感がより出るものの、墨入れが下手だとその効果が弱まるということ。
今回の石標は手彫りだったのですが、墨入れした後は立体感もちゃんと出て良い仕上がりになりました。
あとは以前の状態で墨が綺麗に入っていなかった場所も、字書きとしては気になるので良い感じに修正しておきました。
ただのオタクです。笑
途中の作業のやり方や、具体的な道具等についてはお見せできませんが、とりあえずできたということをここで報告させていただきます。
地域貢献活動と言えばそこまでですが、自分の時間を半日潰しながら、また結構無理な姿勢で墨入れすることは容易ではありません。
墨入れしても気づかれないかもしれないですし、誰がしたのか紹介もされないものだと思います。
書家として、と言うより勝手に気になったから提案して行ったこと。
好奇心のようなものの先に、新しい発見とノウハウが生まれます。
もしかしたら、他にも石碑や墓石に墨入れしてほしいという人に貢献できる日が来るかもしれません。
自分の字を書くことだけでなく、墨入れの技術としても職人として育てていきたいものです。
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